実は、日本人が英語を学習するにあたり、日本人特有の課題があることが脳科学の発展により分かってきました。というのは、日本語ネイティブと英語ネイティブでは、会話をする際に脳の使い方が異なります。
例えば、以下の文章は、同じ意味内容を表しています。
日本語 : 月が見える
英語 : I see the moon.
日本語の多くの文章では動作主体である「私」という主語がなくても違和感がない一方で、英語ではこういった主語を省略するのは基本的にNGです。
英語などのヨーロッパ系言語を勉強していると、何故、既に自明となっている主語や目的語などを、いちいち文に入れなくてはいけないのか、納得できない気分になります。
それでは、「月が見える」といった文を発話する時に、日本人とヨーロッパ系言語の話者では、脳の中にどのような情景を描いているのでしょうか。
こちらの図が、日本人、英語ネイティブの脳内の情景描写をイメージしたものです。日本人と違い、ヨーロッパ系言語の話者の場合、脳内の情景描写には話者自身も含まれています。
これは日本人が話す際には、主に左脳のみを使うのに対し、ヨーロッパ系言語の話者は右脳も使うためです。右脳には、自分自身を客観的に捉えるメタ認知機能ががあるため、このようなイメージが脳の中で展開します。
そのため、文脈から動作主体者が自明となっていても、脳内に存在する主語を省略すると違和感が生じてしまいます。
右脳のメタ認知機能の働きにより動作主体者や動作対象を明確に意識することになるため、日本語とは違い、自動詞と他動詞の使い分けや、能動態、受動態の使い方も厳密なものとなります。また、メタ認知機能から状況を客観的に捉え、論理的に表現をするため、単数・複数、可算名詞・不可算名詞なども緻密に使い分ける事になります。
更に、以下のような表現はどうでしょうか。
・2階の机の上の本(日本語)
・the book on the desk in the room upstairs(英語)
全く同じ意味を示すフレーズですが、日本語の場合は、「2階の」から始まり、「本」が最後に来ていて、視界に入る順番に忠実に言葉が並びます。反対に英語の場合は、これもメタ認知機能が働くため、場面全体を客観的に捉えた上で、一番重要な「book」を最初に言って、ズームアウトしていくように最後に「upstairs」が来ます。
「脳のしくみが解れば英語がみえる」濱田英人著)
日本人と英語ネイティブでは、脳の使い方にここまでの違いがあります。英語の文法には、メタ認知機能が強く作用していることが理解できます。また、文法が違うというだけではありません。英語話者は身の回りのことも、レポーターのように客観的に物事を順序だてて、論理的な漏れがなく説明していきます。
このような右脳のメタ認知機能を使った「英語の感覚」、つまり、「英語表現に必要な世界観」を身に付けるためには、文法や単語を学習するだけでなく、やはり英語で大量の文章を読んで、聞いて、慣れていくに必要があります。
gymglishシリーズのレッスンは、エンターテインメント性を意識したものになっています。これには脳科学の理論的な裏付けがあります。
医学博士であり、MRI脳画像診断の専門家である加藤俊徳先生は脳科学の観点から英語学習法について書かれています。この中で、英語学習のために好きな映画を選ぶことを薦めておられます。
「人間の脳は、興味のある情報に対しては、伝達系脳番地が非常によく働きます。つまり、脳が「聞きたい状態」、「自分から情報を取りに行こうとしている状態」になる、ということです。」
(『脳科学的に正しい英語学習法』加藤俊徳著)
gymglishシリーズの開発チームはこのような脳の状態を「心理的エンゲージメント」と呼んでいます。楽しめるコンテンツで学習した方が、文法や単語が身に付きます。また、好きな文章を読んで理解できたという経験が、更に学ぶためのモチベーションに繋がります。
gymglishのレッスンのコンテンツは、クリエイティブ・ライティングの専門家が書いているので、小説や漫画を読んでいるかのように学習を進められます。
語学といっても、その内容は、文法、単語、読解、リスニング、作文、会話と、そのスキルは様々です。皆さんは語学学習に取り組む上で学習の「順序」を意識していらっしゃいますでしょうか。
この順序について研究したのが、テオドール・ヒッグス(Theodore Higgs)です。彼はアメリカ国務省の外国語教育機関で外交官や諜報員のための研究を行い、語学レベル別にどんな学習に比重を置くべきか、ヒッグス曲線で示しました。
このグラフによると、学習の初期には語彙がまずは必要であり、その後、文法の重要度が上がってくることが分かります。そして、最初に発音を正確に覚えることも大切であることを示しています。(最初に発音を間違えて覚えてしまうと、後でヒアリングで苦労することになります。)
一方で、このグラフからは流暢さや社会言語能力(場面に応じて適切な言語運用ができるか。例えば、敬語など)は、中級レベル以上で比重を上げるべきことが分かります。これには理由があります。語彙や文法の知識が不十分なまま、無理にアウトプット型の発話トレーニングをしてしまうと、誤った語彙や文法の使い方でもある程度は通じてしまい、それが成功体験として脳に定着してしまいます。この間違った記憶が、後々、中級レベルから伸び悩む要因となります。
アメリカのピッツバーグ大学で言語学の研究をされている白井恭弘教授は、言語学習の秘訣は「大量のインプットと少量のアウトプット」が良いと表現されています。会話のトレーニングも大切ですが、インプット型の学習がまずは重要であることが分かります。
日本の学校での英語教育では、文法、単語、精読といったインプット型の学習が中心であるため、既に英語の知識はあり、会話のトレーニングさえすれば会話ができるようになると考える方が多いようです。
では、日本人に必要な英語の学習時間数はどれほどでしょうか。
アメリカ国務省Foreign Service Instituteの研究によれば、アメリカ人が日本語を習得するために2200時間の授業時間が必要とされています。同様に日本人が英語を学ぶ場合にも2200時間程が必要と考えられます。
(余談ですが、アメリカ人が、英語と同じヨーロッパ系言語であるフランス語やドイツ語を学ぶ場合の必要な授業時間数は500~800時間程度です。)
それに対し、現在でも中学から高校までで850時間程度の授業時間しか確保されていません。(文部科学省 学習指導要綱 2017年改訂(中学)、2018年改訂(高校))
大学を卒業していたとしても、まだ1000時間程度の勉強が必要と考えられます。会話のトレーニングも重要ですが、まだまだインプット型の学習も必要です。
gymglishシリーズは、インプット型の学習と、アウトプット型の会話トレーニングを組合せたレッスンを提供しています。